挙国一致の戦争はそれを正当化する価値規範の裏付けなくして出来ることではありません。わが国の十五年戦争の場合天皇制超国家主義への組み込み､宗教的には国家神道への忠誠の如何が試金石となったのですが、カトリック教会は、この存亡の危機を、(1)「神社参拝は愛国心と忠誠心の表現である｣から、許されるものというだけではなく、推められるものとして、協力しました。その上ヴァチカン市国は､（２) 傀儡国家『満州帝国』の成立(1932･3･1)に際しては､世界赤化を断固阻止するためとしてこれを承認し、国家主権と民族自決権を蹂躙しました。(1)も(2)も、ともに、十五年戦争の起点・原点に位置し、戦争責任にかかわる重大な要件ですが、｢カトリック教会は十五年戦争に責任がある」と告白だけはしていながら、その原因の自覚も撤回も放置されたままになっています。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はじめに

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　カトリック教会の謝罪は？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　は じ め に

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　もはや戦後ではない、と言えるために

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　キリスト教の使命

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　必要な検証

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　基本姿勢

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(一) 戦後責任こそ問うべきもの

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 (二）教会の戦争責任の重大性 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(三）責任ある対応

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  　(四）希望を捨てずに真実の検証を

　沖縄での本土防衛捨石戦、広島・長崎での原爆ホロコーストをもって終結した「十五年戦争｣は1931年９月から1945年8月のことでした。これが、少なくともアジアの兄弟に対しては侵略戦争だったことは定見ですが、半世紀を経過すれば侵略戦争も「過去の事」となるのでしょうか｡要は、補償賠償の伴った謝罪のあるなしにあり、加害者にとっては苛酷な運命をもたらした｢現在の事実」です。ようやく実現した「戦後五十年(国会)決議」(1995年6月9日)と｢(村山)首相談話」(1995年8月15日)が、被害者である兄弟に責任あるものと映らなかったのは当然です。
　それでは｢平和の君」イエス・キリストのお建てになった教会の「戦争責任」はどうなるのでしょう。神と人への奉仕の道具である教会が戦争に与することなど、信じられないことですが､一旦経済政治社会に福音化を企るのであれば、世の光、地の塩であることに代って､世の権力に迎合しその下僕になり下がった事例も枚挙に暇がありません｡日本カトリック教会の事例も悲しくも痛ましい事例ですが、もし未だに事実を認めそれに即した告白謝罪をしていないとすれば､一層悲しくも痛ましい現実といわねばなりません。
　日本カトリック「教会の戦争責任」については、1986年９月「アジア司教協議会連盟」総会が東京で開催された折、日本カトリック司教協議会会長(当時）白柳誠一大司教（現枢機卿）が次のように、
　「わたしたち日本の司教は、日本人としても、日本の教会の一員としても､日本が第二次世界　大戦中にもたらした悲劇について、神とアジア･太平洋地域の兄弟たちにゆるしを願うもので　あります。わたしたちは、この戦争にかかわったものとして、アジア･太平洋地域の二千万を　越える人々の死に責任を持っています｡まさにこの世代の人々の生活や文化の上に今も痛々し　い傷を残している･･････この事実を率直に認めて謝罪します。」
と明言しました。日本カトリック司教団教書『平和への決意』(1995年2月25日)で、反省して謝罪した具体的な事実としては、「二千万を超える人々の死」他、無残な戦禍を挙げていますが､それらがなぜ「教会の責任」になるのか解りません。カトリック教会が自ら「二千万を超える人々を殺した」とか「無数の女性・子ども・民間人を殺害した」とか指摘されたとしても、それが「日本人として」なのか「日本の教会の一員として」なのかが問われねばなりません。｢日本人としての」責任を教会が取り上げることは教会独自の責任を隠蔽しかねないのが問題ですが､それ自体は「一億総懺悔」の類です。それでは「二千万人超を殺めた｣ことが「教会として｣の責任だと言われても、まさか「教会自身がそれを行った」とか「実行犯になった｣訳ではないことは明らかです。カトリック教会に戦争責任があるとの訳は宗教集団としての責任です｡通常「宗教集団」は「何を善し」とし「何を聖とする」かの鍵を握る「価値集団｣であって、時として､「強奪殺人」を「救国的行為」とし「侵略戦争」を｢正当防衛｣とも「聖戦」ともなし得る訳で､宗教集団こそ国民を総動員し挙国一致体制を実現する最も広範かつ最も決定的威力を振います。そして、望むか望まないかに拘わりなく､日本カトリック教会は今次侵略戦争の遂行に重かつ大の責任を担いました。現象的な事柄ではなく、国民を鼓舞して総動員体制へと結集させ、聖戦遂行への挙国体制の実現のためにカトリック教会が、他の諸宗教ともども、果たした役割は絶大なものがものがありました。日本カトリック司教協議会『平和の決意』でも触れてさえいない「教会固有の責任」の例として、本小著では「神社参拝の容認」と「満州帝国の承認」とを挙げてみました。国内的にも国際的にも苦渋の決断をされた当時の教会当局者にとっては身命を賭した決断であったことは言うまでもありませんが、この決断がいかに多くの「よき牧者と小羊」を救ったかという事実と同時に二千万を超えるアジア・太平洋地域における兄弟を殺める結果となりました。そこには、当時でさえ、信教に悖り信教の諸原理にそむく背理が感じられていたはずですが、戦時統制下の強制と重圧が解けて以降、即ち、自由を回復して以降の戦争責任の方が、倫理原則上、ずっと重大となりました。とにかく「平和の君」の創設にかかり「平和の君」のご意志の実現を本務とするカトリック教会が、“聖戦遂行”“国威発揚”に邁進したことは摩訶不思議でしかないものの、それ以上の摩訶不思議は、戦後に自由を回復して、半世紀、あの戦前の（戦争協力への)決定は正しかったと言い続け、少なくともこれらについて一切口を閉ざしたままで､「戦争（後）責任告白」ができると考えるメンタリティの不思議です。
　すでに、「戦争の二〇世紀」の最後の一年、未だに何らの責任ある対応もなされていないのが「教会の戦争責任」です。戦後五〇周年を期して行った筆者による教会の戦争責任についての問題提起は決して歓迎されたとは言えませんが、『福音宣教』誌が1996年8･9月号より1997年6月号迄、10回にわたって連載を許して下さった事は、この上なくありがたい救いでした。勿論それとて殆ど反響を呼ぶ訳でもなく、教会自身の「戦争責任の総括」へどれだけ結びついたのかつかなかったのか、これが「戦争の世紀」を終えようとする最後の機会に単行本としてまとめておかなけれがならないと痛感した理由でした。
　時あたかも二〇〇〇年の大聖年、｢時の充満｣「主が恵みをお与えになる年｣を祝うには、｢悔い改めと和解」(32)が前提となると説かれます。教皇ヨハネ・パウロ二世の使徒的書簡『紀元二〇〇〇年の到来』(1994年11月10日)は記します−
　｢教会は、過去の誤りと不信仰、一貫性のなさ、必要な行動を起こすときの緩慢さなどを悔い　改めて自らを清め･･････ることなくして新しい千年期の敷居をまたぐことはできません｣とも､　｢過去の弱さを認めることは、わたしたちの信仰を強める勇気ある誠実な行為です」とも。
　真の「原則」は、一者に対して妥当するばかりではなく、全者に対して妥当しなければなりません。そして「責任原則」であれば、他者への適用に先立って自己への適用を先行するものでなければなりません。「教会の戦争責任」を問わねばならない理由です。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　          二〇〇〇年四月

　敗戦五十周年、記念の年が終わりました。
　それでは、これで「戦後」は終わったのでしょうか。「戦後」という時代区分をいつまでもひきずっていることは異常ですが、この異常さを卒業できるかどうかは、ひとえに戦争責任を果たし終わったかどうかにかかっています。
　一九九五年八月十五日、大阪ドーンセンターで催された「第十回アジア・太平洋地域の戦争犠牲者に思いを馳せ心に刻む会｣で「アジアからの証言｣に立った五人の中に潘開明さん(七十六歳)と李秀英さん(七十七歳)の二人がありました。
　潘さんは南京大虐殺時、十八歳、揚子江河岸で数珠つなぎにされ、日本軍から一斉射撃を受けた際、危うく死を免れ、深夜死体の海から脱出に成功した生存者です。李さんは南京占領時代、十九歳、日本軍の暴行を恐れて隠れていたところを見つけられ、やむなく軍刀を奪って抵抗し､三十七ヵ所の傷を受けながらも生き延びた生存者です。以来、五十八年、人生の大半を彼らがどんなに苛酷な運命を背負って生きてこなければならなかったかは想像を絶するものです。
　加害者のほうではとっくの昔に忘却のかなたに押しやった事柄も、被害者にとっては切実な現在の痛みです。もしわたしたちが「アジア・太平洋地域の二千万を越える人々の死に責任をもっている」のなら、かれらの親・兄弟・子どもたちを含めて、少なくとも一けた多い人たちの現在の痛みに責任を負っているはずです。失われた生命が再び戻ることはなく、被害者が悲惨な事実を忘れることはありません。しかし、加害者が可能な限り謝罪をしていたら、ゆるすことは不可能ではなかったあずです。
　半世紀にしてようやく「戦後五十年(国会)決議」が可決され､｢(村山)首相談話｣(同年八月十五日)が実現しました。よくぞヤッタ､と言いたいところですが､これらの表明には「謝罪」も「不戦」もありません。「何回土下座すればいいんだ」⁽¹⁾、｢いつまで誤りつづけねばならないんだ｣⁽²⁾とは口先だけで謝罪ができると思っている人たちの言葉です。これでは被害者の痛みは癒されることはなく、もはや戦後ではないとは、いつまでたってもいえるはずがありません。

　日本カトリック司教団は､教書『平和への決意−戦後五十年にあたって−』(1995年2月25日)を公表し､日本カトリック正義と平和協議会は声明「新しい出発のために」(同年4月16日)を発表しました。
　司教団教書では「わたしたちは、･･････アジア･太平洋地域の二千万を越える人々の死に責任を持っています。さらに、この地域の人々の生活や文化などの上に今も痛々しい傷を残している
･･････この事実を率直に認めて謝罪します」と明言します。謝罪し反省すべき具体的な事実としては、｢二千万を超える人々の死｣「生活と文化の破壊」のほかに、対外的には「無数の女性・子ども・民間人の被害｣「強制連行｣｢戦時性奴隷」､体内的には「多数の同胞の戦死」「沖縄の焦土化」「度重なる空襲」「広島・長崎への原始爆弾投下」を明記しています。
　確かに「アジア･太平洋地域の二千万を越える人々が犠牲になった」のは本当としても､これら
の人々を教会が自ら手を下して殺傷したとか、殺傷しようとしたことはないはずです。教書も、それらは「日本人としての責任」としていますが、それでは「教会共同体としての責任」は何だったというのでしょうか。それは「非人間的、非福音的な流れに気づかず｣､「神のみ心にそって果たさなければならない役割について適切な認識にかけていた」ことと記していますが、それが何を意味するのか、具体的内容がわかりません。

　　キ リ ス ト 教 の 使 命

　宗教は、通常、聖という超越的至高価値から人間世界の基本的価値規範を提示し、日常世界にあるすべてのものに意義を与え、個々人には向上する意欲(動機づけ)を、社会には目的達成への活性化(動員)を行う、根源的精神文化と記されます⁽³⁾。
　特に、理想主義的傾向の強いキリスト教では、神の子キリスト・イエスの託身・受難・復活という救済の御業の完成によって、すべての人間が神の子となり、互いに兄弟となって、終末的完成という最大の理想に向かって各人と教会共同体は「地の塩」「世の光」としての証しに励むことを一大使命としています。「平和の君」を戴く「平和の福音」は、自己の幸せだけを希求するのではなく、すべての兄弟の例外なき幸せ、すなわち、平和の実現を最終目標としています。
　これを宗教の二大機能とされている「体制維持」と「体制変革｣⁽⁴⁾ に当てはめてみれば、少なくとも理想主義的であるキリスト教の場合、前者ではなく後者を目的とすること、すなわち、個人と体制の諸悪を克服し、来るべきメシアの世界を可能とするあらゆる「預言者的役割」につくことを本来の使命としています。この本来の使命を発揮して「地の塩」「世の光」となっているかどうかが、キリスト教がキリスト教であるかどうかの決定的用件です。

　　必 要 な 検 証

　ところが、キリスト教カトリックの歴史の実態は、この世の勢力にくみす
るだけでなく、目を背けたくなる事実にも事欠きません⁽⁵⁾。
　わが国の「十五年戦争」との関連でも､「体制擁護」と「福音的証し｣のそれぞれに、いかなる事実が見いだされるかを実際に見届けなければなりません。
　｢ゆるしの秘跡」の場合でも､「罪を犯しました」だけでは、通常は不十分です。抽象的、消極的に「預言者の役割を果たさなかった」だけでは、「何をしたのか」「しなかったのか」が皆目不明で、これでは、時として悪事をひた隠しにする不誠実さとも取られかねません。どんな事実があったのか、なかったのかを究明して初めて、「預言者的役割を果たさなかった」ことの中身がわかります。
　教皇ヨハネ・パウロ二世の使徒的書簡は教会の過去の歩みを反省するよう、次の言葉で呼びかけます。
　｢教会は、この千年の間に教会で起きたことをはっきりと意識して､この節目を通過することは適切なことです。教会は、過去の誤りと不信仰、一貫性のなさ、必要な行動を起こすときの緩慢さなど悔い改めて自らを清めるよう、その子らに勧めることなくして、あたらしい千年期の敷居をまたぐことはできません。過去の弱さを認めることは、わたしたちの信仰を強める勇気ある誠実な行為です｣(『紀元二〇〇〇年の到来』33項、邦訳、カトリック中央協議会44ページ）。
　そして､新しい千年を目指すものには、事実の究明、真実の検証が必要なことを説いています｡
　司教団教書も同様に､｢教皇のこの呼びかけにこたえて、わたしたちも、この戦後五十年を節目として、人間として、信仰者として、戦争へ向かった過去の歴史についての検証を真剣に行い、真実の認識を深め、悔い改めによる清めの恵みを願いながら、新たな決意のもとに世界平和の実現に挑戦したいと思います｡｣(『平和への決意』12ページ）と諭し､｢第二次大戦とそれに向かう流れについての正しい認識と検証｣を強調しています｡(それのもかかわらず｢教会共同体としての責任｣が問われる具体的事実の指摘がまったくないことはどのように理解すればよいのでしょうか｡)　これから行う検証では、国内的事例として、“満州事変”以降、にわかに摩擦が大きくなり教会が存亡の危機に至った際に導入された「神社参拝の容認」問題を取り上げ、国際的事例として、日本の傀儡国家満州帝国を「教皇庁が承認した」問題を取り上げます⁽⁶⁾。
　前者については多くの検証があり、問題糾明だけは済んでいるかのようですが、事実確認と理論的検証のいずれについても徹底していないように思われます。
　後者については､｢承認」の事実さえひた隠しにされ、冷戦体制とその後の国際宗教事情の展開に教会自身が関係している事実など、まったく意識されていないかのようですが、その歴史的、現代的意味合いは決して小さなものではありません。とはいうものの、新しい資料が発掘されたわけではなく、既存の資料に頼り、それらの再検討に終始するのはやむを得ないことですが、それでも、従来の“定説”とはずいぶん違った実像が得られることと思われます。　　　

　具体的事実の検討に先立って、筆者にとって大切だと思われる基本姿勢の幾つかを記しておきます。
(一)戦後責任こそ問うべきもの
　｢悪いこと」を「避けることができる」にもかかわらず行えば､｢責任」が生じます。(イ)｢不正な戦争」を(ロ)「回避可能である」のもかかわらず実行、あるいは協力すれば、｢戦争責任」が問われます。
　十五年戦争当時、｢戦争は政治の延長｣⁽⁷⁾とみなす「無差別戦争論｣⁽⁸⁾が一般的で、いまだ｢戦争違法論｣⁽⁹⁾が定着していたとはいえず、違法性を判定する機関も､違反した場合に適用される法律も存在しませんでした｡「侵略戦争は犯罪である｣とする認識も制度も定着していなかったのですから、(イ)「不正な戦争」の責任を問うことはできないはずでしした⁽¹⁰⁾。
　ところが、｢平和は可能｣であることを説く宗教者､｢預言者的証し」を使命とするキリスト者にとっては、戦争はその動機、目的、結果、実態など､どの視点から見ても｢悪い」｢人道にもとる｣といわねばならず､（イ)「戦争は不正」と知りつつ戦争に反対しなかった宗教者は一様に責任を負わなければなりません。
　(ロ)「回避可能性」については、当時は信教、言論、結社などの自由が制限され、治安維持法と特別高等警察の締めつけのもとにあって、迫害と殉教を回避しようと、一命を賭して尽力された当時の教会当局の決定を､自由を回復した境地から論議できるものではありません｡「回避可能性」の点から見れば、当時の教会当局の責任は（だからといって数々の不都合は改めなくてよいわけではありませんが）大幅に軽減されることは確かです。
　これらの「戦争責任」に対して、自由を回復したうえでの「戦後責任」は違います。
　｢戦後責任」とは戦争を行った国家に属するメンバーが果たさなければならない､未処理の「戦争責任」のことで⁽¹¹⁾、これについては日本の国家指導者もまったく無感覚であったばかりでなく、宗教者もキリスト者も同様で、「戦責告白」を直ちに行った宗教集団は皆無でした。預言者的証しを使命とするキリスト者が本来の役割を自覚せず、俊悟も反省もしなかった事実を何と受けとめればよいのでしょうか。
　しかも、自由を回復して五十年、先に指摘した「国家決議」と「司教団教書」を挙げるまでもなく、いまだに「戦後責任」を誠実に果たそうとしているとは言えません。「戦後責任」だけが残された者の義務であり、対応可能な責任です｡その意思さえあれば､直ちに対処できるのであって、自由と可能性のあるなしの差によって、倫理的には「戦争責任」よりもはるかに重大なものであることを、しかと心しなければなりません。
(二)教会の戦争責任の重大性
　教会は、十五年戦争を通して、自ら下して人々を殺めたことはありません。ただ殺める行為を良しとして体制に順応美化し、多数の国民を兵士として戦場に駆り立て、安んじて殺傷に励ませたのです。
　悲惨な結果との関係では、個々の兵士のそれよりも、一層その責任は重大です。なぜなら、個々人の内的動機づけと社会的動員を行う宗教集団は、悲惨な結果には間接的にしかかかわらなくても、主犯と実行犯との関係に似かよって、決断決行を命令するより決定的で広汎な役割を発揮しているからです。とすれば､「日本人としての責任」に比較して､「教会共同体としての責任」は、格段に重大なものであることを留意しなければなりません。
(三)責任ある対応
　口先だけで〈ゴメンナサイ〉と言うだけでは「謝罪」にはなりません。国連人権小委員会の
ファン･ボーベン氏によれば、謝罪(被害回復)には「現状回復」「補償」「更正」「満足」｢再発防止」の五条件が満たされなければならず⁽¹³⁾、だから、「不戦」も「補償」もない「決議」や
｢談話」は、「謝罪」には値しません。
　では､『平和への決意』はどうでしょうか。｢神者参拝」を容認した戦前の決定が撤回されたことがないばかりか、戦後の再検討でも戦前の決定は有効と､ダメを押されたままになっています｡｢満州帝国の承認」については､大日本帝国の敗退と満州帝国の崩壊、国共内戦と新政権の樹立、冷戦開始とその長期化という激流のかなたにひた隠しにされているかのようで、「謝罪」も「戦責告白」も一切なされていません。
　このように、具体的な道徳規範についての矛盾を放置し、混乱に乗じて責任をほうかむりし通している間は､「もはや戦後ではない」などと言えるどころではありません。
(四)希望を捨てずに事実の検証を
　｢預言者的役割」にもっとた「過去の歴史についての検証を真剣に行い､事実の認識を深め」なければ、謝罪も反省も、まして平和への挑戦もあり得ない、と司教団教書は断言しました。具体的事実の検証を欠いた謝罪では、控えめに言っても、不誠実というものです。そのための最後のチャンスとみなされた敗戦五十周年が不発に終わったからといって、歴史の正しい認識と検証を放棄すれば、｢新しい千年期の敷居をまたぐことはできません｣。
　歴史への責任は、わたしたち自身の主体的対応なしには取ることが不可能です。聖霊の導きにすべてをゆだねている教会が、もし真実の究明を怠れば、もはや教会とは言えませんし、罪とは無関係と公言する者は神と自己を欺く者(�Tヨハネ1･8-10)、信仰者の良心がこれを許すはずがありません。
　ささやかな検証を始めるに当たって､「過去の弱さを認めることは､わたしたちの信仰を強める誠実で勇気ある行為である」ことを肝に銘じたく願います。

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