西 山 俊 彦

₍₁₎
「日本国憲法」前文は「国民主権」「基本的人権」「平和主義」を宣言し､「これは人類普遍の原理であり、この憲法は､

かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」（前文、第98条�@及

び第99条）と規定した。

世界秩序、人類秩序は「普遍的原理」に基づくものでなければならない。その欠如態、或いは、対極に位置するのが一部
₍₂₎
の権力者による秩序、「覇権主義｣であって、両秩序の充足の如何は両原理の充足の程度に比例する。新崎盛暉は述懐す

る――
_（3)
「戦後日本の政治体制は50年前も、30年前も、そして現在も、一貫して構造的差別の上に成り立っている｡｣
　
差別的構造、覇権秩序は、普遍的原理が普遍的に充足される平和とは正反対、とすれば、「平和憲法」を堅持してきたは

ずの日本が、「有事（戦時）法制」さえ成立すれば、日本一体となってどこへでも出撃できる「差別・覇権体制」を如何
 _(4)　かこ
にしてなしとげたのか｡長期にわたる為政者の深謀に歯噛みし、主権者としての無為無策を託つしかないが、なぜこのよ

うな事態に立ち到ったかの事実と論理を確認しておくことは、明日への微かな曙光となるのではなかろうか。先ず、

「一極覇権体制」へ組み込まれて行った歴史的事実を垣間見た上で、そのような変貌を可能とした「解釈改憲」の背理等

を指摘したい。

「核抜き・本土並み」のウソ

「沖縄の復帰なくして日本の戦後は終わらない」の条件は「核抜き、本土並み」であった。

１　これが「本土並み」？

　先ず、経済指標にこれを見れば――

₍₅₎

　「３次にわたる『沖縄振興開発特別措置法』による６兆７千億円の投下にもかかわらず、基幹

　産業一つ育っていないのが現状、県民所得は全国平均の71.9％（1999年)、失業率は7.2(2002

₍₆₎

　年1月現在、同全国平均5.2)％、若年（15−29才）失業率は14.5（同9.7)％に明白である｣。

₍₇₎

　これでは「（国内）植民地ではないか」との思いも押え難く、不変の「捨て石」永遠の「生贄」

_{(8)　　　　　　　　　　　　　　　　むべ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(9)}

に代えて、『沖縄独立論』の叫ばれるのも宣なるかな、と言わねばならない。

２　「共同宣言」による日米安保の再規定

₍₁₀₎

　いま一つの復帰の条件「米軍の削減（核抜き）」の方はと言えば――

₍₁₁₎

「日米安保が、冷戦に対処するための軍事同盟」だったとすれば､「冷戦終結とともに再検討をする

₍₁₂₎

のが『常識』、しかし…日本政府はこれに背を向け」て、日米共同で「日米安全保障共同宣言」

（1996･4･17）を発して日米安保の強化拡大と基地の固定永続化を宣言、以後、ＳＡＣＯ最終報告

（1996･12･2)、「新ガイドライン」の発表(1997･9･23)、「周辺事態法」の成立(1999･5･24)、

「テロ対策措置法」の成立(2001･11･2)、「沖縄振興特別措置法」の施行(2002･4･1)と「有事法制｣

の国会提出(2002･4･17)へと発展し、残すところは「憲法改正」のみではとの憂慮すべき事態に到っ

てる。これが冷戦終結に伴う「平和の配当」を求めて止まない軍事縮小ムードに逆行していること

は確かである。米軍全体と在日米軍の実数を次に確認しなければならない。

３　米軍全体の削減状況

　梅林宏道の纏める米軍全体の削減状況は次の通りである――

「端的に変化したのは核戦力への依存度、1989−94年の５年間に、核兵器関連予算は60％低下し、

人員は半分に、戦略原潜は39隻から19隻に半減した。国防費全体も同時期に実質27％減少、人員は

213万から161万人へと24％低下、通常兵力も陸軍の師団数が十八個師団から十二個師団（33％減)

へ、空軍攻撃機・戦闘機数は1800機から960機（47％減）、軍艦数は約550隻から390隻（29％減）

₍₁₃₎

へと、おおむね30−40削減された。」

「国防戦略も対ソ戦略から地域紛争対応型に転換し、第一期クリントン政権の『ボトム・アップ・

レビュー』（1993）では、アジア太平洋地域に配備された兵力は、朝鮮有事と中東紛争を想定した

戦力維持を目標に、13万5千から9万8千人に、27％減少した。これはヨーロッパ地域より少ない減少

₍₁₄₎

数だが、相当な削減数であることに変わりはない。」

４　在日（在沖）米軍も同率で削減？

　それでは「ボトム･アップ･レビュー」の効果は在日（在沖）米軍の削減にも及んだのだろうか。

同じく梅林宏道の検証によれば――

　「日本を母港としている米海軍の人員を含めて見ると、在日米軍の兵力は1989年から94年まで

　に5％しか削減しなかっただけでなく､日本を母港とする軍艦の数は15隻から17隻に増えた。そ

₍₁₄₎

　の結果、アジア太平洋地域の米軍の中で在日米軍の占める割合は44％から58％へと高まった｡｣

　在日米軍の比重の増大は量的だけでなく質的にも顕著であって、これは在日米軍の性格が変化し

たことを意味している。同じく梅林によれば――

　「海兵隊即戦団の佐世保母港化は特記すべきで、ヘリ空母とも称される強襲揚陸艦ベロー・ウ

　ッドの配属（92･9）と第11水陸両用艦隊（92･12）および第31海兵遠征隊（92･8）の創設によ

　って、海兵隊は文字通り中東紛争と朝鮮有事とを一つの視野におさめる恒常的な地域紛争対応

₍₁₄₎

　型の遠征部隊に再編された。」

₍₁₅₎

　このような変貌は、日米安保の目的が、日本の防衛よりも、

₍₁₆₎

「極東における国際の平和と安全の維持に寄与するため」が主眼、即ち、朝鮮有事と中東紛争への

₍₁₇₎

対応が主眼となれば、米国による日本の防衛は元より第一義的目的ではなくなる。だから「日米安

保共同宣言」の下敷きとなった「ナイ・レポート」（1995･2･28）は、

　「日米関係ほど重要な二国間関係は存在しない。日米関係はアメリカの太平洋安全保障政策と

　アメリカの地球規模の戦略目的の基盤になっている。日米の安全保障同盟はアジアにおける米

₍₁₈₎

　安全保障政策のかなめ（リンチピン）である。」

　と明言したのである。「共同宣言」を受けて「新ガイドライン」が設定され「日米共同作戦計画｣

が立てられ、一連の関連法が整備されて自衛隊の海外派遣も可能となった。後には「有事立法」の

制定を残すのみとなったが、これら一連の「戦争法」に共通する難点は、「有事」を決定する主体

が欠落しており、「自動参戦法」となっている事である。加藤周一の指摘はこうである――

　「正確にはどういう場合が有事なのか、最近の議会の問答でも政府側の説明は、それは米国が

　決める。米国がこれは有事であるといえば、米軍の戦闘行為を日本側は支援するということの

　ようです。そこには支援の内容を別としても、二つの問題があります。一つは日本側に…選択

　の自由がないことです。米軍が軍事行動をとれば、自動的に、無条件に、特定の支援を与える

　という風に…読めます。…米国のやることは…常に正義を代表しているとは限らないでしょう。

　…無条件に米軍を支援するとすれば、日本の自衛とは係わりのない場合をも含みます。自衛の

　ためでなくても自衛隊が動くという約束は、憲法と矛盾するだろうと思います。…第二点は、

　日米間の極端な非対称性です。『有事を決めるのは誰か』という質問を米国の議会ですれば、

　…それは日本政府が決めると米国政府が返答するでしょうか。…それから、憲法との関係は、

　初めは非武装で、その次に自衛のための軍備。…ところが、世界平和のための行動には自衛隊

　が使えるとなると、今の解釈は文法上成り立たないのです。…平和のための戦争を肯定したら

₍₁₉₎

　全ての戦争に賛成することになります。」

₍₂₀₎

「米国に（参戦か非戦かの）白紙委任状を提出する」に等しい「新ガイドライン」では、「専守防

衛」「個別的自衛権」の原則さえ霧消する。国是を放棄し憲法を否定し、専一「唯一の超大国」に

奉仕するところには「強権による安定」はあり得ても、「自由と平等に基づく平和」はあり得ない｡

�U　「平和憲法」解釈改憲の妙

不戦の誓いの裏で

　いかに世界情勢の要請するところであったとしても、日米安保の一方の当事者は主権国家日本、

非戦・非武装の「平和憲法」を持ちながら、条文の一言半句も変えることなく、世界第二位の軍事

費大国となっているのも主権国家日本、今や集団的自衛権の行使をもって一極覇権主義のお先棒を

担ごうとしている。なぜこれらが可能となるのか。「解釈改憲」の不可思議を確認しておかねばな

らない。

１　成立当初は「絶対平和憲法」

　戦後日本の進路を決定したのは「ポツダム宣言」（1945･7･26）だった。そこでは、

　「侵略戦争の原因であった軍国主義勢力の除去、戦争遂行能力の清算と軍隊の完全な武装解除、

₍₂₁₎

　民族主義と基本的人権の確立」

が求められていた。それを受諾して成立したのが「日本国憲法」（1946･11･3）で、「平和主義」に

ついて憲法前文は「非戦」「恒久平和」「国際協調」を誓い、本文第九条では、

　「�@日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、

　武力による威嚇又は戦力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する｡

　�A前項の目的を達するため、陸海空その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これ

　を認めない。」

と �@「戦争を放棄」 �A「戦力不保持」 �B「交戦権を否定」した。これらが文字通り「非武装｣

「非戦」の「絶対平和主義」と理解されていた事は、制憲当事者の見解に明瞭である。内閣総理大

臣吉田茂は、

　「戦争放棄に関する本案の規定は、直接的には自衛権を否定してはおりませんが、第九条第二

　項に於て一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権

　も抛棄したものであります。従来近年の戦争は多く自衛権の名に於て戦われたのであります。

₍₂₂₎

　満州事変然り、大東亜戦争然りであります。…」

_{(23)　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(24)}

と答弁した。当時の学説も、その根拠もさまざまだったが、「一切の戦争を放棄した」と理解する

点では一致していた。同じことを文部省教科書『あたらしい憲法のはなし』（1947）に学んだこと

は筆者の遠い記憶である。

２　「サンフランシスコ平和条約」と

　　「日米安保体制」　

　日本国憲法発布と前後して東西冷戦が勃発し、日本は単独講話を締結し、西側陣営の一員となっ

て復興から繁栄を企る道を選択した。

　主要事項は次の通り――「鉄のカーテン｣（1946･3･5）の自覚化、中華人民共和国の成立（1949･

10･1）朝鮮戦争の勃発（1950･6･25）等、共産主義陣営の台頭とともに、日本の独立・再軍備への

道が始まった。ただに反共自由主義陣営の一翼を担うためだけでなく、自由主義経済による発展の

鑑として途上諸国の規範となるためであった。「単独講話」「日米安保」は「沖縄の分離・基地化｣

と「対米従属」を代償としていたが、警察予備隊の発足（1950･8･15）から「世界第２位の軍事費

₍₂₅₎

支出国」となる迄の“自衛力”増強の営みと日米安全保障の拡充強化が「絶対平和主義」憲法の下

でどのように可能となったのかを明らかにしておかねばならない。

３　何でも可能な「解釈改憲」

　一連の対応・変貌を可能とした「解釈改憲」の論理の要点だけを、杉原泰雄の分類によって指摘

すれば、「自衛戦は戦争に非ず」と見なす「自衛ルート」と「国際平和（貢献）のための連帯は武

₍₂₆₎

力行使に当らず」と見なす「軍事同盟ルート」に大別される。

「自衛ルート」とは、警察予備隊の創設には「警察力の補強」として、保安隊への改組には「警察

力を超えても、近代戦争遂行能力を意味する 《戦力》 に至らない実力だから、自衛隊の創建には

「他国を侵略するものではなく、自国と自国民を防衛する自衛力」だから合憲と、「自衛力」を拡

大解釈しつつ「平和憲法」を骨抜きにして行った。「自衛力」についての政府見解は――

　(1)（すべての独立国は自衛権をもっている。）日本は、独立国として自衛権をもっている。

　(2)　したがって、急迫不正の侵略に対し、自らを防衛するために必要最小限度の実力（自衛力）

　　 をもつことは憲法で禁止されていない。

　(3)　核兵器、細菌兵器、化学兵器も、その範囲のものであれば、憲法で禁止されていない。

　　 （「非核三原則」は憲法によるものではない。）

₍₂₇₎

他二つである。次に「軍事同盟ルート」とは (1)旧日米安保条約による米軍の駐留 (2)現行安保条

約の調印による 軍事同盟の継続強化 (3)「ガイドライン」（1978）の設定による共同行動の緊密化

(4)「新ガイドライン」関連法の成立（1999･5･24）による強化一体化を指している。この間、「戦

力なき自衛権」から「戦力なき」が吹き飛んで、「自衛権」だけが独歩し、今や「集団的自衛権｣

はもとより、「核武装」も「先制攻撃」も容認しかねない勢いである。次に、「自衛のため」「国

際貢献のため」 と前置きさえすれば何でも可能とされる「解釈改憲」論の全般的背理を指摘し、続

いて 日本政府の個別的見解 (1) (2) の背理を指摘しなければならない。

４　「解釈」は権力者の“特権”　

_たけなわ

「いつか来た前例」を想起しよう。国粋主義酣の昭和一桁期、学校単位で実施された「神社参拝」

に苦慮したカトリック教会当局は、文部省が参拝を命じる意図（目的・理由）が愛国心の涵養のた

めの教育的配慮からであれば、カトリック信者も参拝し易くなるのだが、と文部省にお伺いを立て

て、「その通り」とのお墨付きを得て神社参拝を奨励し、聖戦遂行のための最重要要件、精神作興､

₍₂₈₎

のお役目を十二分に発揮した。宗教集団の戦争責任が問われている理由であるが、教会・政府文部

省合作によるこの「スリカエ」は、各種の「政教分離原則」違憲訴訟判決の中心原理とされている

「目的−効果」基準として、現在でも多用されている。いかなる「事物」も「行為」も、異なった

「目的」「影響」「効果」「結果」「動機」「意図」…との関連付けを変化しさえすれば、千変万

₍₂₉₎

化、「黒」が「白」に、「白」が「黒」になるのは朝飯前、ただし実際に「ピストル」を「鳩」と

呼ばせ、「核兵器」を「平和の道具」と納得させるかどうかは、「支配・被支配」者間の権力格差

と「権力者」自身の「鉄面皮」の程度にかかっている。いずれにしても「平和のため」でなかった

戦争はこれ迄になかった。

５　立憲民主国家が超憲法的権利に基礎？

　政府の個別的見解 (1)「すべての独立国は自衛権をもっている」について、その根拠を問えば、

₍₃₀₎

個々人の正当防衛権に類した“自然権”とでもなるのだろうが、たとえ、政府見解を全面的に認め

るとしても、それは「実定法」「成文法」化される以前の超法規的な規範であって、立憲民主制度

を採用している日本国が、自己の制定憲法を差し置いて、超法規的自然権を優先させることは、法

治国家としての自滅となるのではないか。

６　個々人の「正当防衛件」は

　　｢非常事態」における「非常手段」

　国家の「自衛権」の“根拠”とされる個々人の「正当防衛権」に限って記せば、これが日常にお

ける日常的手段でないことに留意しなければならない。なぜなら「正当防衛」とは「急迫不正の侵

害に対して、自己または他人の権利を防衛するためやむを得ず行う加害行為」（刑法36条）である

が、「急迫不正の侵害」という非常事態であることが明白であるうえに、「やむを得ず行う」非常

手段であって、「いつでも」「どこでも」「誰にでも」認められる通常の権利ではない。「非常事

態に非常手段を認めること」を正常と見なすことは、「絶えず銃で護身しなければならない凶気と

暴力の社会」を理性と公正の人間社会とするトンダ錯覚ではないのか。「正当防衛権」を根拠とし

て「自衛戦争」を容認できるのも、それは非常時における非常手段としてだけなのに、自衛戦争を

₍₃₁₎

平常事態に肯定して疑わないのは、非常と日常、戦争と平和の区別さえ付かないからではないのか｡

�V　唯一の超大国による覇権主義と

　　日本の一体化

米現政権中枢作戦のレポートを読む

　社会主義体制の崩壊はその非効率性の証拠ではあれ、資本主義体制の効率性の証拠とはならない

はずなのに、市場経済至上主義が礼賛され、冷戦終結以降は“唯一の超大国アメリカ”の覇権体制

となった。これからは地域・民族紛争の時代との予想に違わず、湾岸戦争、ユーゴ内戦、パレスチ

ナ紛争等々の展開は、地域対応型戦略の先見性を確認するかの観があった。覇権維持に不可欠な仮

想敵国は、イラン、イラク、リビア、キューバ、北朝鮮（朝鮮民主主義人民共和国）等、“ならず

者国家 Rogue States”“無法国家 Outlaw States" と置くのがクリントン政権の戦略で、ブッシ

₍₃₂₎

ュ現政権でも、特に９．１１以降、不動であるが、現政権はより大きな枠組を背景に「新しい時代｣

への新基軸を提示すると言う。現政権の中枢を占めることになった人々を中心に作成された３つの

_よすが

レポート−Ｒ−の要点を紹介し、現下の日本の政治動向を理解する縁としたい。

１　アーミテージ・リポート（ＡＲ）

　　「米国と日本の成熟したパートナーシップ

　　を目指して」（2000･10･11）

　これは米国国防大学国家戦略研究所特別報告で、R・アーミテージ国務副長官、P・ウルフォウィ

₍₃₃₎

ッツ国防副長官等、16執筆人中、5名が政権入りし、他の8名も関係を持っているところから、将に､

現政権の施策を予告したホットなレポートである。

　　冒頭に強調したのは「アジアはアメリカの繁栄にとって死活的に重要」なこと、それは「世

　界人口の53％、世界経済の25％を占め、米国の輸出入額が年間600億ドルに上る」からである。

　その「アジアは、ヨーロッパと比較して不安定であって、大型紛争が朝鮮半島と台湾海峡に発

　生する可能性」がある。この「潜在的危険を前に米日二国間関係はかつてなく重要であって、

　これが米国とアジア関与の要石、世界的安保戦略の中心」である。

　　ところが「米日関係の最大の制約となっているのが、日本が集団的自衛権を禁じていること

　であって、模範とすべき米英関係のように緊密化する」ためには、「有事立法の制定」「PKF

  の凍結解除」等のタブーを除くと同時に、「憲法を改正して第９条を撤廃すべきである」と

₍₃₄₎

　提言している。

ＡＲは、明確すぎるほど明確な目標設定とそのための方策を提示し、それは国是、国憲の変更を大

₍₃₅₎

胆に迫るもの、将に、宗主国―保護国としての日米関係を露骨に示すものである。

２　「アメリカとアジア ＡＡＲ」（2001･5）

₍₃₆₎

　ＡＡＲはアメリカ空軍当局の委託に基づいたランド研究所の報告である。先ず、

　「アメリカの軍事的プレゼンスがアジア諸国の驚異的繁栄を可能にした」と自讃し、「ならず

　者国家脅威論」に代えて覇権国家として台頭が予期される「中国脅威論」を唱え、そのために

　二国間安保同盟の拡大強化の重要性を説いているが、特に「日本の関与の枢要性」と、そのた

　めの日本の「憲法改正の不可欠性」とアジアにおける米国軍事態勢の「南方（琉球諸島南部）

　へのシフト」を説いている。

₍₃₇₎

このＲでも「中国脅威論」のあからさまな指摘と米日緊密化のための「日本国憲法改正」への踏み

込んだ提言が際立っている。

３　「日本とミサイル防衛 ＪＭＤ」（2001）

₍₃₈₎

　ランド研究所の今一つの報告で、

　　北朝鮮が発射した「テポドン1号とノドン1号の危険」を指摘しつつ、一層危険なのは「潜在

　的超大国中国の中距離ミサイルの脅威」であって、そのための対応と日本政府の関与の必要性

　を説いているが、日本政府の関与が共同研究の推進という「限定的なものに留っている事態に

　懸念」を表明する。日本としては「集団的自衛権」「宇宙空間利用禁止条約」「武器及び軍事

　技術の輸出」「ＡＢＭ条約」等との関係に生じる課題を解決するとともに、「憲法改正の不可

　欠性を明言」するものとなっている。

　ＪＭＤも前２者同様、日本が何をなすべきかを大胆に提言するものになっている。

　以上に紹介した、ブッシュ現政権の外交・軍事戦略を準備したと見なされる、３つのＲに共通す

る要点を３つに限って指摘すれば、それは次の通りとなろう――

　⑴　アジア、ひいては、世界の平和と繁栄のためにアメリカの軍事的プレゼンスの果たした 功

　　績は絶大であり、今後とも絶対不可欠の要件であること　　　

　⑵“ならず者国家”の無法撲滅は当面の課題ではあるが、長期的には超大国としての中国の 台

　　頭が覇権秩序への脅威であること

　⑶　日米安保を基軸とする安全保障面での日本の貢献は重要であって、そのためには日本は 日

　　本国憲法を改正する必要があること

　いずれも大胆不羈な見解であって、それらがいかに独断的・覇権主義的なものかだけでも記さ　

　なければ、本稿は無責任の謗りを免れない。結論的に記せば――

　⑴「安全保障は酸素のようなもの、酸欠にならねば有難味は湧かないが、平和と繁栄の先行 条

₍₁₈₎

　　件」に対しては、それは「新興宗教の狂信か暴力団のやり口と同じ強弁」と明言しなければ

　　ならない。なぜなら「世の終わりが近い」と予言しておいてまだ世が終わっていない事態を

　　「それは教祖様がお祈りくださったから」と説明する論理に何の根拠もなく、あるいは《安

₍₃₉₎

　　全代》を巻き上げる暴力団にも暴力の裏付けしかないのだから――

　⑵　中国に超大国への可能性があるからと言って、改革開放路線をもって近代化を目指してい

₍₄₀₎

　　る中国に「脅威論」がどれほど実態に即していると言えるだろうか。潜在的脅威に対し て

_{マキシマリズム　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(41)}

　　「科学技術の極限能力を基準」として軍事戦略を進める「能力立脚型」のブッシュ政権の姿

₍₄₂₎

　　勢にこそ問題があるのではないのか。「ライバルは排除」では政治も外交も放棄するに等し

　　い。「中国は味方として扱えば味方」、覇権主義でも単独行動主義でもなく ､「新しい時代｣

　　を拓く平和秩序樹立をこそ先行課題とすべきではないのか。

　⑶　日本国憲法に対する態度は主権者国民のとるべき態度、「憲法改正」への米国側の提言が

　　「集団的自衛権の行使」への米国側の条件に留まらず、日本側の、いや正確を期せば、小泉

　　政権の「本音」に根差し、それへの援護射撃である可能性は十分ある。次の小泉首相の国会

　　答弁は、論理も憲法もどこ吹く風でなはいか――

　「国民的常識で見れば自衛隊はだれが見ても戦力を持っていると見ているでしょう。今まで総

　理大臣はこういう答弁しなかったんですよ。建前ばかりに終始して。そういう建前じゃいけな

　い、本音で議論しようと、本音で。…私は、そういう意味において、国民の常識と違うじゃな

　いかと言うから、憲法そのものも、国際常識に合わないところがあるんですよ」（2001･10･23､

^{……………………　 　――――――}

　傍線筆者）

　何が「本音」で何が「建前」かは言わずもがな、「有事三法案」を「長年の課題で国家存在の基

本」と衆院本会議で明言（2002･4･26）したのは、憲法を揶揄しこれを無視して対米協力に邁進する

「本音」そのもの、もとより、いずれの「新ガイドライン」関連法も憲法の「本音」を曲解するも

のだった。特に現小泉政権は「行け行けドンドン」でガムシャラに突進、「ブッシュ大統領のサー

₍₄₃₎

ジェント（軍曹）」よろしく「構造改革」の名の下に「解釈改憲」「憲法違反」を重ねに重ね、行

き尽くところ迄行き尽いた――もはや曲解すべき課題は「有事法案」以外残っていないのだから。

これが成立すれば、日本国憲法の空洞化・形骸化は完成し、死文化した条文だけが空しく残る。最

早「憲法改正」さえ無意味かもしれない。浅井基文のコメントは次の通り――

　「小泉首相の発言は、…戦後保守政治がやってきたことが誤りだったことを認めている。しか

　し問題は、これまでの誤りを認めて憲法の根本にたちもどるというのではなく、憲法そのもの

　が問題だ、という方向に話をもっていこうとするところにある。」「そして対米軍事協力を前

　に進めるためには手段を選ばない。私は言葉を失う。」「安全保障のあり方だけではなく、日

₍₄₄₎

　本の民主主義そのものの危機を感じる。」

₍₄₅₎

　　伊藤成彦の言葉によれば、「私たちは今そのような曲がり角に立っている。」

　数行での要約

　次稿に全てを委ねるとして、後数行だけを許されたい。憲法は規定している――

　「憲法は国の最高法規であって、これに反するいかなる法令…も効力を有しない」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（前文、及び第九八条）

　　　　　　「内閣総理大臣は憲法遵守の義務を負う」　　　　　　　　　　　　（第九九条）

　規定は明々白々、しかし、何が「本音」か「建前」か、憲法の根本を確信を持って否定する当事

者には言っても無駄なこと、にもかかわらず、次の要約だけは当事者のためにも記しておかねばな

らない――

「平和憲法が人類普遍の原理である」(前文）とすれば「覇権主義にのめりこめばのめりこむほど、

平和秩序から遠ざかる。」なぜなら、平和は「基本的人権」の例外なき（普遍的）尊重の実りであ

_{グローバルスタンダード}

り、この普遍的原理に基づいた普遍的平和秩序は、強者と権力者だけに奉仕する覇権主義とは対極

に位置するのだから。

【注釈】