西 山 俊 彦

　　　　　　＊　本稿は、関西わだつみ会主催「不戦のつどい｣（2001年12月8日､於大阪経済大学)での講演
　　　　　　　　　　 ｢同時多発テロは何を意味するのか」を拡充文章化するものである。

　２００１年９月１１日にアメリカ合衆国の中枢部を襲った同時多発テロは、史上類のない大惨事

だった。「これは全文明世界への宣戦布告だ」とＧ・Ｗ・ブッシュ大統領は明言、「正義のアメリ

カ」につくか「悪の権化タリバン」に与するか、の二者択一を世界に迫った。一方、アラブ世界で

はこのテロに喝采した民衆も多く、パレスチナ・キャンプでは“祝い”のキャンデーも配られた。

　米同時多発テロは“快挙”か“暴挙”か――　筆者の見解では、暴力に訴える手法は間違いなく

暴挙ではあるが、では「いわれなき」暴挙かどうかは、検討を待たねばならない。

検討課題は、

　(1) （正義の権化とされる）アメリカ（の支配する）社会は、可能な範囲で効率的かつ公正であ

るのか

　(2) （悪の権化とされる）アメリカ（の支配する）社会以外は､(1)と比べて格段に非効率で不

公正であるのか

の真偽である。ただ(2)は可能態にも及ぶため検証が容易でないところから、本稿では(1)の検討に

甘んずるが、「テロが発生した」一事を持って自明と言えなくもない。2001年末までのマスメディ

アによる報道は、主謀者と目されたオサマ・ビン・ラディン氏の捕物帳とその武装組織アルカイダ

　_{せんめつ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　                          　  　(3)}

の殲滅戦ルポに終始し、事件の真相究明はおろか、なぜ「いわれなきテロ」なのか、その原因と全

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₄₎

体的意味関連を問わないものが大半である。“極悪犯を槍玉に上げ”さえすれば一件落着とする姿

勢は、「正義のアメリカ」を鵜呑みにし、問題の真相や解決を放棄するもの、としてフィリピン大

学のＷ・ベローは、次のように指摘する――

　「米政府が世界の安全保障と平和に本当の意味で貢献できる唯一の方法は、テロリズムの現象面

　だけに対処するのではなく、その根本原因に踏み込んだ解決策を講じることである。アメリカは

　中東と第三世界に対する政策を再検討し、実質的な変更を行う必要がある。それは、これら地域

　が、現在排除されている人びとのために公正、正義、そして真の国家主権を達成するのを妨げな

　いように諸協定を見直すことを支援する政策変更でなければならない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₅₎

　　その他の方法はすべて終わりなき戦いを引き起こすものである｡」

�Tテロリズムの定義の自明性

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 _かくま　　

　ブッシュ大統領は「テロリスト追求」を確約し、「彼らを匿う勢力も同罪」と明言した。テロと

は何か、テロリストとは誰かは、一見明快なようであるが、現在「救国の志士」「偉大な韓国人」

　　　　　_{あんじゅんぐん}

と呼ばれる安重根（1879−1910）も、かつては「明治の元勲・伊藤博文を暗殺したテロリスト｣と

見なされていた。テロか志士かは自明ではない。

　テロの定義には、支配者側のものと被支配者側のものとの、二種類がある。前者は｢(反体制者を

　　　_テラー

威嚇と恐怖によって弾圧支配する）恐怖政治」のことで、フランス革命期支配、ナチス政権、スタ

ーリン体制などが例示される｡本稿との関係では後者――被支配者側――からの定義が一層重要で､

その要点は、

　「個人、或いは組織が、一定の目標、目的を実現するために、暴力・威圧・恐怖に訴え、騒擾・

　破壊・不安を増大させる政治手法」

である。戦後、テロリズムが国際社会の重要課題となったのは、ハイジャックが頻発しだした1960

年代以降のことで、国際法としては「航空機内犯罪等に関する条約｣(1963)をはじめ12の条約が採

決され、うち11については 170を超える締約国が批准し、発効している。にもかかわらず日本政府

は、「テロの定義は存在しない」と答弁しているし、「国際的にも合意された定義はない」といわ

れる。その理由は、一定の行動が「正当な反体制運動（民族自決・民族解放運動）か、純然たるテ

　　　　　　　　　　　　　　　　₍₉₎

ロリズムかの区別は困難」だからである。

　いかなる反体制運動も、それが暴力に訴える限り、非合法的犯罪であって、弾圧処罰の対象で　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _{レジスタンス}　

なかったか。第二次大戦中のフランス等における抵抗運動、アルジェリアの独立闘争、ベトナムで

の民族解放ゲリラ戦、パレスチナでの一斉蜂起、等々は皆、体制側支配者側から見ればテロリズム

でしかなかったものが、権力奪取(回復)の暁にはその正当性が逆転した。テロリズムとしては「反

体制的」「非合法的」と見られた運動だが、「体制」奪取の可能性をも「合法性」獲得の可能性を

も秘めていたわけである。「自由、平等、博愛」の旗幟の下に理性と人間性の勝利と謳われてきた

イギリス革命、アメリカ独立革命、フランス革命なども、事実としては暴力・殺戮・狂乱と……無

縁ではなかった。皮肉なことだが、現在、インティファーダ等によるパレスチナ抵抗運動をテロリ

ズムとして国家権力と軍事力で圧倒するイスラエル自身、この事実だけでもテロ国家であることは

明白だが、その独立は､イギリスの委任統治を執拗かつ組織的テロ活動でもって排除した結果であ　

るとは、イスラエル自身噯気にも出さない歴史的事実である。　　

　テロは「犯罪」であって『戦争』ではない
　
　テロが非合法な反体制運動であることは、とりもなおさず、その行為の主体が国家ではなく、個

人かその組織であることを意味している。個人であれ組織であれ、非合法な暴力行使は犯罪であっ
　　　　　　　　　　　　　　₍₁₁₎
て、国内法と警察力の対象であり、どう転んでも「武力による国家間の闘争｣(広辞苑）である「戦
　　　　 　　_{は　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(12)}
争」には当て嵌まらない。戦争は、歴史的には、外交手段の合法的延長と認められ、現在も、少な

くとも自衛的なそれは国際法上容認されているところから、「テロリズム（は戦争であり、それ）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　₍₁₃₎
に対する（報復）戦争などということは、(“新しい戦争”という言葉を使っても）意味がない｡」

にもかかわらず、アメリカはスコットランド上空でのパンナム機爆破事件(1988)、ケニア・タンザ

ニア米大使館同時爆破事件(1998)､ブッシュ大統領暗殺疑惑(1993)､クリントン大統領不倫事件(19

97) などに当面すると、間髪を入れずリビア、スーダン、アフガニスタン、イラクへ巡航ミサイル

を撃ち込んだ。西谷修はこれは完全な無法行為であると、次のように指摘する――

　「『犯罪』に対する『報復』に『戦争』を宣言するというこの『無法』を、現在の世界の中で公

　言できるのはアメリカだけである｡アメリカはこの『例外的特権』を自己のものと主張している｡

　世界の秩序に『例外状況』を宣言し、『暴力の発動』を正当化する。『無法』と『正義』との完

　全な一致がこうして生まれる。…しかし、これが初めてではない。すでにアメリカは何度もこう
　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₁₄₎
　して『テロ』に『戦争』で応答してきた｡」

　｢1991年に米議会は、米軍の『特殊部隊』がいかなる国においても作戦活動を行うことを承認し

た。これは…テロの組織化と実行を含む秘密作戦の展開が米国の軍事外交政策の不可欠の要素であ

ることを公認したことを意味していた。とすれば、『米国こそテロ支援国家』とのノーム・チョム

スキー(米)の定義と…『テロにはテロを』という米国の非公式の作戦活動が（文字通り）公式化さ
　₍₁₅₎
れた」わけである。

　公式・非公式の別はともかく、米国国際政治学者チャルマーズ・ジョンソンは「ＣＩＡ（米中央

情報局）が外国政府の転覆や国家テロ作戦を実施した明白なケース」に限るとしたうえで、「イラ

ン(1953)、グァテマラ(1954)、キューバ(1959−60)、コンゴ(1960)、ブラジル(1964)、インドネ

シア(1965)、ベトナム(1961−73)、チリ(1973)、エルサルバドルとニカラグア(1980年代)、イラ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  _（16)
ク(1991−現在)、そしておそらくギリシャ(1967)への介入」を列挙している。もちろん､当然のこ

とながら、これら一連の介入は、相互に、そして現在のテロと報復戦に至るまで、連綿と繋がって

いる。
　
　例えばＣＩＡは、石油国有化を断行したイランの民族主義者ハメド・モサデク政権崩壊(1953)に

手を貸し、シャー・モハメド・パーレビ国王に以後25年の統治を保証した。これは、ホメイニ師に

よるイスラム原理主義革命(1979)を準備し､またイラン・イラク戦争(1980−1988)とイラン封じ込

めへのＳ・フセイン大統領のイラクの軍事大国化と盟邦化、そして湾岸戦争を結果した。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₁₇₎
　ＣＩＡがイラン東端のアフガニスタンに、親ソ政権への対抗勢力として「反共のイスラム戦士・

ムジャヒディン」を育成支援し続けたのも、同じ中東政策の一環だった。とはいえ、「テロ育成支
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_{(18)　  　　　　　(19)}
援」を開始したのが1979年12月のソ連によるアフガニスタン侵攻に先立つ５、６ヵ月前であって、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₂₀₎　
これがアフガニスタンへの介入を挑発し、ソ連を“ベトナム戦争”の泥沼に陥れたのだとすれば、
　　　　　　₍₂₁₎　　
たとえその目的が冷戦終結とソ連・東側体制の崩壊にあったとしても、世界最貧国のアフガニスタ

ンを23年間にわたって殺戮と破壊のドン底に落とし、180万人の死傷者と260万人の難民、そして
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_{(22)　　　　　　　　　　　　　(23)}
いつ除去され得るかも判らない１千万個の地雷を残した、手段を選ばぬアメリカの世界戦略は、確

実にテロリスト以上である。かつては「悪の権化・ソ連に立ち向かう自由の戦士」ともてはやされ

今では「全文明を否定するテロリスト」と称されるオサマ・ビン・ラディン氏もアルカイダも、そ

して、極悪非道の独裁者Ｓ・フセイン大統領も、「無限の正義・アメリカ」自身が育んだ「ブロー
　　　　₍₂₄₎
バック報復」だったとは、何たる皮肉であろうか。

�Uテロ殲滅戦争は合法か

　これまでにテロリズムの定義とアメリカの関与のあり方について、主題を展開するための枠組み

の一部を提示した。同時多発テロは暴挙であるが、これへの報復も同様ではないか、その回答が既

に提出済みともとれようが、殲滅戦争の合法性についていま少し明記しておくのが適当ではなかろ

うか。その後の経過を一言すれば､事件発生とともに「報復」を宣言した米英は、10月7日に空爆を

開始、11月16日ラマダン初日までにタリバン政権は崩壊状態となり、12月22日に「暫定行政機構｣

が発足した。しかし、同時多発テロの主謀者と目されるオサマ・ビン・ラディン氏捕縛とアルカイ

ダ殲滅のための空爆と掃蕩戦は、2002年1月17日現在、なお続いている。

　いったいどのような理由で一連の戦闘行為は正当化されているのだろうか？

　個別的・集団的自衛権に基づくとの理由

　米英政府は国連安保理議長に宛てた書簡において、対アフガニスタン攻撃は「テロリストとこれ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₂₅₎　　
を匿う者に向けられた個別的・集団的自衛のための固有の権利に従ったもの」と説明し、国連憲章

第51条を援用した。しかしこれが理由だとすれば、以下の根拠で合法的とは言えない――

　　ハイジャックや人質行為等に関する条約が想定する｢テロリズムは『国際犯罪』と呼ばれるが､

　…国際的な手続きによって処罰される本来の意味での国際犯罪ではない。締約国が…自国の刑事

　法によって処罰しうる犯罪として､…自国の裁判所において審理し処罰するものである｡｣（松井､

　４１）

　「少なくとも現行国際法を前提とする限りは、国際法主体ではないテロ集団による攻撃は、たと
　
  え武力攻撃に匹敵する規模であっても、…国内法上の犯罪であって、…武力を含む警察行動の対
　
  象であり、国際法上の自衛権によって正当化する必要はない｡｣（松井、４２）
　
  「軍事行動は…国家領域内の人と物とを物理的に破壊する行為であり、そもそも個人の補捉や組
　
　識の壊滅のために適合した行為かどうか、まして…一月近く経過して開始されるとすれば、その
　
　緊急性や均衡性の点で自衛権行使の諸条件を満たしているか疑問がある｡｣（藤田、１０）
　
　「テロリストを匿う国家に対する自衛権が正当化されるのは、テロ行為が当該国家の命令管理の
　
　もとに行われた場合｣(松井、４３）であるが、オサマ・ビン・ラディン氏が主謀者であるとの証
　　　　　　　　　　　　₍₂₆₎　
　拠も、英国政府が発表した状況証拠以上のものはないとすると、命令管理を証明する必要さえな
　₍₂₇₎
　い。

以上、問題点の幾許かを列記したが、証拠が十二分であったとしても軍事行動の要件を満たしてい

ないことは明らかである。もちろん、現代社会とてテロリズムの横行を放置しているわけではなく

先にも記したとおりジェノサイド条約、ハイジャック防止条約、人質防止条約など、現代国際法に

は12(11)のテロ防止・処罰条約が存在し、実際旧ユーゴの「民族浄化｣、ルワンダの「部族虐殺」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₂₈₎
に関しては国連決議に基づいた国際法廷が設置され、機能している。或いは、日本がフジモリ前大
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₂₉₎
統領を“匿っている”のは明らかだといって、ペルーが日本に巡航ミサイルを撃ち込むだろうか。

またチリのアジェンデ首相虐殺、イランのモサデク政権転覆等々、ＣＩＡの関与が明白な無数のテ

ロ事件でさえ、国連決議がある場合であっても、アメリカ以外のどの国が直接報復を行うというの

だろう。国連難民高等弁務官カンダハール事務所の千田悦子は、2001年9月13日に書いている――

　「ただテロの“疑惑”があるという理由だけで、…ミサイル攻撃を行っているのは世界中でアメ

　リカだけだ。…このままではテロリスト撲滅という正当化のもとに、アメリカが全世界の“テロ

　リスト”地域と称する国に攻撃を開始することも可能ではないか。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_{む く}
　（また、たとえ）ビン・ラディンがテロリストだからといって、無垢な市民まで巻き込む無差別
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₃₀₎
　なミサイル攻撃を、国際社会は何故…黙認しつづけるのか｡」

「報復とは通常、自国が受けた「不当な行為に対して（不当な行為で）仕返しすること｣（広辞苑)

である。ブッシュ大統領は「非文明の宣戦布告」に対し「文明の正義を実現する」と応じた。しか

し、こともあろうに2001年7月の段階で､「同時多発テロのあるなしにかかわらず」アフガニスタン

への攻撃はセットされていた、と井上礼子は書いている――

　「英国のＢＢＣが、同Ｇ・アーニー記者取材として報じたところによると、ベルリンで７月に催

　された国連主催のアフガニスタン関係国会議で、オサマ・ビン・ラディンを米国に引き渡さない

　限り、彼とタリバーンの指導者ムハマッド・オマルを殺すか捕虜にするための軍事行動を10月中

　旬に起す予定だという…作戦の目的はタリバーン体制を転覆させ、ザヒル・シャー元国王を頭に
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₃₁₎
　頂いた、より中立的な国を建設することだったという｡」

とすれば、１０・７の“報復”は９・１１があってもなくても決まっていたわけで、なぜブッシュ

大統領が「真珠湾の再来」と絶叫し「全文明への挑戦」と憤慨するのか解らない。この謎に筋道を

与えてくれるのが、モロッコの国際政治学者Ｍ・エルマンジュラの指摘する、アメリカ外交の伝統

的基軸である――
　
　「1990年8月15日、当時のジョージ・ブッシュ米大統領は『われわれの仕事、れわれのライフ・

　スタイル―いま息子のジョージ・ブッシュ米大統領も『ライフスタイル』を強調しています―、

　われわれの自由われわれの友人たちの自由は、もし油田が敵の手に落ちたなら危機に瀕するだろ

　う』と言いました。湾岸戦争が軍事的に始まったのは、1991年1月ですが､私は実質的には半年前
　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₃₂₎
　のこの日から始まったと思っています｡」

もしもこの文言どおりなら、アメリカの「ライフ・スタイル」も「アメリカの自由」も「アメリカ
                             　　　　　　　　 ₍₃₃₎
の友人の自由」もすべて、石油あってのものだねとなり、タリバン政権の圧政も、アフガン人民の
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₃₄₎
人権も貧困も、あったとしてもただの口実だったということになる。いや、いま一歩踏み込めば、

９・１１の大惨事があってもなくても同じこと、或いは、数千人のアメリカ国民の犠牲のあるなし

にかかわらず、American Way of Life こそがすべてだったのだ。あまりにも厳しすぎる観を与え

かねないが、井上礼子の結論はこうである――

　「(湾岸戦争)当時も、そして今も、米国の国民は（そして日本国民も−追加−）石油資源をふん

　だんに使った生活を確保している。今回のアフガニスタン攻撃は、米国の石油関連多国籍企業が

　その巨額の利益を守るための戦争であり､9月11日に突然始まったわけではない。貿易センタービ

　ルで命を落とした人たちも、こうした米国の政策の犠牲者ともいえる。今も昔も変わらない戦争
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₃₅₎
　である。しかし、それを『反テロ国際包囲網』を形成するためのステップとし、マスコミを通じ

　て全世界をそこに巻き込むことが、グローバル化時代の特徴である。世界中の政府は米国を中心
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₃₆₎
　とするグローバル経済から締め出されないために、これに乗らざるをえない構造になっている｡｣

�Vグローバライゼーションこそその「いわれ」では？

　テロの目的はなかったのか？
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_{(37)　　　　　　　　　ヽ ヽ ヽ}
　同時多発テロは「無意味な自爆テロだった」という。謂われの「ある」「なし」は見る目を持っ

て「いる」「いない」の差、一体「世界貿易センター」「ペンタゴン｣（と「ホワイト・ハウス」)

は「空の箱」とでもいうのだろうか。それらが間違いなくグローバルな「金融資本のメッカ」「軍

事的支配の象徴｣（と「政治的指令中枢」）だとすれば、即ち“一極支配体制”そのものとすれば､

それへの身命を賭した抗議ではなかったか。正しいと思うことへの抗議ではない。正しくないと思

うからこその抗議である。他の方法で解決可能なのにもかかわらず自爆したのではない。他に方法
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₃₈₎
がないと思ったからこそ一命を賭したのではなかったか。

　現代世界秩序を一語で特徴づけるのは「グローバライゼーション−ＧＮ」である。それはあらゆ

る関係者に「グローバル・スタンダード−ＧＳ」を適用する秩序であって、誰に対しても同一基準
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _{えこひいき}
であるところから、ＧＮは「フェア（公正)」「オープン（依怙贔屓なし)」「ユニバーサル（世界

大)」な秩序であって、その結果、個人間でも社会間でも公正を保証するとともに､社会全体として

もその効率は極大化されるといわれる。ところが、いかなる基準であっても、社会事象に関するも

のである限り、誰かを基点にしたものであることは避けられず、強者にとって都合のよいことは弱

者にとって不都合となる。先進国−端的にアメリカ−を中心とした基準は、たとえそれがＧＳと呼

ばれようと、各々の占める位置に応じて「二重基準−ダブル・スタンダード｣（いや「三重基準」
　　　　　　　　　　　　　　　_{(39)　　　　　　　　　　　　　　　　　　 (40)}
｢四重基準｣ ･･･）とならざるを得ず、アフリカ、アラブ諸国等の途上国にとっては「周辺化」「疎

外化」「窮乏化」を強いるものに他ならない。ＧＳはアメリカン・スタンダードであり、ＧＮとは
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₄₁₎　　
アメリカ化、正確には、アメリカによる一極支配である。

　グローバライゼーションが世界大の弱肉強食を容認し、世界大にも各国国内別にも、貧富の格差

を拡大させることは、火を見るよりも明らかである。でなければ、シアトルの世界貿易会議(1999)

が抗議のために流れ、ジェノヴァ・サミット(2001)では死傷者が出るほどの抗議の渦とはならなか

ったに違いない。Ｓ・ジョージは、ＧＮには次の３つの問題があると指摘する――

　(1) 国家間にも個人間にも、不平等を増大させる。

　(2) 政治的にも経済的にも、無責任体制（誰も全体のことを配慮しない）を助長する。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　₍₄₂₎
　(3) 少数の勝者と多数の敗者を生み出すにもかかわらず、敗者への対策を持ち合わせない。

以上、少しくその解説を垣間見ただけでも、ＧＮはダブル・スタンダードに基づく不公正な世界秩

序としか見えない。しかし、筆者の基本的立場は、「それは検討の結果を待たねば」というもので

あって、次号以降の検討課題となるが､その領域を経済的、政治的、軍事的領域に限定し､具体的に

はＧＮの理論的モデルとされる「市場原理主義」の背理、二重基準の典型とみえる「パレスチナ問

題の」現況、そして日本自身が「パックス・アメリカーナ＝アメリカの一極支配」に加担する「沖

縄の恒久基地化」の時代錯誤を取り上げる予定である。ただ筆者の力量と紙幅の関係で、ＧＮの現
　　　　　　　_{むご　　　 まか}　
実とはどれほど酷い不正が罷り通る世界であるかを指摘する程度となることを許されたい。　　　　　　　

【注釈】

Ｍ・Ｂ・グルディ「『文明間の対話』のカギ握る日本」（『潮』2001･12、102-107、104頁）。 川�ｱ泰資「空洞化するジャーナリズム」（『世界』2001･12、26-29頁）。坪井善明「対テロ・アジア国際協力体制の構築を」（『世界』2001・12、56-61、56頁）。

W. Bello, "Endless War?" (Sept. 2001, http://www. focusweb. org/publications/2001/endless_war.html.)
アジア太平洋資料センター『これは新たな戦争か？』（2001･10、28-34、34頁）。

米国公式文書の定義から、愛敬浩二「前掲論文」、53-54頁より。より周到な説明にブラジルのゲリラ 指導者Ｃ・マリゲラのもの（Ｃ・ジョンソン「９月11日の『ブローバック』」『軍縮問題資料』2002･1、14-19 、14頁）、Ｗ・ラクァーのもの（森戸幸次「『テロ論』の再考」『軍縮問題資料』2001･11、44-49、44頁）がある。

例えば「…まことに合衆国（近代市民社会―筆者―）は暴力行為によって生まれたのである。」斎藤真『アメリカ史の文脈』（岩波書店、1981、126頁）、等々

西谷修「これは『戦争』ではない」前掲。伊藤成彦「対策テロ攻撃事件―これは戦争ではない―」（『軍縮問題資料』2001･11、22-27頁）。

Ｄ・ウォーナー「テロリズムとは一体何か」、豊田利幸「2001年９月11日に思う」（『軍縮問題資料』2001･12、5頁）
参照。

Ｃ・ジョンソン「前掲論文」16頁（しかしこれらの国の中、アメリカに報復攻撃をした国はないのだから、同時多発テロはその方向性において異例中の異例である）。愛敬浩二「前掲論文」(54頁)。

「レーガン大統領は彼らと記念撮影を行い、『ムジャヒディンの理想は、米国の建国者たちに通ずるものだ』と賞賛した。」アルンダディ・ロイ「戦争は平和」（『世界』2002･1、15-122、119頁）。

ソ連がアフガニスタンに侵攻したのは1979年12月24日で、カブールの親ソ政権に敵対する勢力に秘密支援を行うようにカーター大統領が秘密指令を出したのが1979年７月３日だった。ロバート・ゲーツ元ＣＩＡ長官の回想録によれば、その時長官は「この支援がソ連の軍事介入を誘発するだろう」とのメモを大統領に渡している。Ｃ・ジョンソン「前掲論文」(17頁)｡  

映画「カンダハール」のマフマルバフ監督談によれば、250万の死傷者と700万の難民、それに1000万個と言われる敷設地雷。ＮＨＫ『クローズアップ現代』「アフガンの�A悲しみ�@を撮る」2002･1･16（水）、19：30−20：00）。

「そうしたことを全て後悔していないのですか」とのフランスの週刊誌『ル・ヌーヴェル・オブセルバトゥ ール』のインタビューに答えてカーター大統領の国家安全保障担当補佐官だったズビグニュー・ブレジンス キーは「何を後悔するというのですか。あの秘密作戦は、すばらしいアイデアだったのです。ロシアをアフ ガニスタンの罠にはめることができたというのに、それを後悔しろというのですか。ソ連が公式に国境を越 えた日、わたしは、カーター大統領におおよそ次のように書きました。『今やソ連にベトナム戦争をさせる 機会が訪れた』と」。「将来のテロリストたちに武器とアドバイスを与えてイスラム原理主義を支援したことも後悔していないのですか」との問いに対しては、「世界史においてどちらが重要でしょうか。タリバンでしょうか、ソ連の崩壊でしょうか。いくらか興奮したムスリムたちでしょうか。それとも中央ヨーロッパの解放と冷戦の終焉でしょうか」（W.Blum & D.D.Gibbs, "Afganistan : The Soviet Invasion in Retrospect. "International Politics,  vol.37,June 2000,pp.233-46, Ｃ・ジョンソン「前掲論文」、17頁）参照。

松井芳郎「米国の武力行使は正当なのか」（『世界』2001･12、40-47、42頁）。藤田久一「国際法から観たテロ、アフガン武力紛争」（『軍縮問題資料』2002･1、8-13、9頁）。

最上敏樹は、軍事行動は次の５つの要件を充たさなければならないとする―⑴明確な目的がある。⑵唯一止むを得ない方法である。⑶最も有効な方法である。⑷国際社会に積極的に容認されるものである。⑸合法的な手続きをとったものである。今回の米英の⑴軍事行動の目的には、(�@)「敵への報復」(�A)「自衛」(�B)「テロリストの討伐」が考えられるが、いずれも⑵⑶⑷⑸の要件を充たしていないところから、「結果的には内戦への武力介入」となっている、と分析する。我部政明他「同時テロ・アフガン戦争をどう考えるか」「シンポジウム・同時テロ、報復戦争以後の世界」(『世界』2002･1、78-114､82-83頁）。

酒井新二「武力でテロは解決できない―国際的司法手続きで裁け―」、カトリック社会問題研究所編『テロと報復への視点』（フリープレス、2001･11、82-90、86頁)。前田哲男「更に深まる日米安保の変質」(『軍縮問題資料』2002･2、22-29､23頁)。

千田悦子「超大国の横暴にいつまで沈黙すべきか」（『テロと報復への視点』61-64、64頁）。

マフディ・エルマンジュラ「アメリカによる単一支配と戦争」（『これは新たな戦争か？』16-26、17頁）。Ｗ・ベローに言わせれば「アメリカの中東政策の柱の第一は、アメリカの石油依存文明を維持するために、中東の石油に対するアメリカの無限のアクセスを優先し、中東地域の人々の利益を二の次におくこと。第二の柱は（中東にそのための最も信頼できる橋頭堡を確保するために）イスラエルに対する無条件の支援である。」(「終わりなき戦い？」32頁)。

「1999年３月米下院でのヘリテージ財団の証言では、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの３国だけで150億バレルの石油、９兆㎥の天然ガスの埋蔵が確認されている。米国ウノキャル社等は、1998年１月にタリバーン政権とアフガニスタン経由のパイプライン建設で基本合意していた。」(井上礼子「前掲論文」61-63頁)。その埋蔵量は「トルクメニスタンだけでアメリカにおける30年分の消費量、発展途上国なら２世紀はしのげるだろう。」（アルンダディ・ロイ「前掲論文」、121-122頁）。

「アメリカの世界戦略にとって人権はただの口実であり、真の目的は石油エネルギーの確保であることは湾岸危機と中東問題への対応のダブルスタンダードに明らか･･･」（Ａ・ロイ「同」）。「人権、女性の地位、麻薬、テロは米国の制裁攻撃のネタであって、真実は資源の権益、国際的影響力の保持、軍需産業の権益等である。」（山内継祐「底流」『テロと報復への視点』113V）。

「テロ撲滅」へのグローバルな共鳴は「中国では新彊ウィグル自治区での分離独立運動の弾圧を、ロシアではチェチェン紛争への武力行使を、スペインではバスクのＥＴＡ（祖国と自由）との対決を･･･正当化したい各国事情を反映している。」内藤正典「イスラームはこの戦争をどう見ているか」（『世界』2001･12、75-80、77頁）。

自爆という方法しかないと感じるまで追いつめられたパレスチナ人たちの闘いが、今回の事件の実行犯の行動様式に影響を与えたという関連を否定することはむずかしい。」板垣雄三「脅威と報復の悪循環を止めるために」（『世界』2001･11、46-50、49頁）。